寺田本家さんのお酒づくりがあまりに菌フレンドリーでビックリした話

日本酒業界では有名な酒造「寺田本家」さんの蔵見学に、とうとう行ってまいりました〜!
本日はその体験を紹介します。(実際には1月にお邪魔したのですが、なかなかブログを書けず、少し時間が経ってからの投稿になります。すみません)

寺田本家とは?

千葉県香取郡神崎町にある酒造で、350年の歴史あるお蔵さんです。現在は24代目になる若い杜氏さんが当主を務められています。

で、寺田本家さんはあることで日本酒業界ではとても有名なんです。
異色の存在みたいなポジションで語られることも多くて、何でそんな言われようをするかというと、自然のままのお酒づくりを徹底しているからなんですね。
自然のままのお酒づくりといえば、普通に他のお蔵さんでも取り組まれていることだと思うんですけども、寺田本家さんは本当に徹底している(笑)。

無農薬米のみ、生酛づくりで乳酸菌はもちろん、酵母菌も添加せずに蔵付き酵母を使うところや、精米歩合90%で作ったり菩提酛仕込みもやる。
この辺りの専門用語はあとで説明しますが、要するに効率重視・安定供給の世界から一線を画したお酒づくりをされているんですよね。自然のまんま。

わたしは今回蔵見学に参加させてもらい、寺田本家さんの「菌ウェルカム」な姿勢にほんとうにビックリしまして。何がどうすごいのかは後回しとして、まず、何を見学させてもらったのかを紹介します。

実際どんなふうに作ってるか、何を見せてくれたか

酒造の若い蔵人さんが、丁寧に案内してくれます。
見学は、日本酒づくりの行程に沿って辿ることになりますので、ここでざっくりと日本酒造りの行程をおさらいしておきましょう。

①原料処理……原料のお米を処理する手順。お米を削って(精米)、洗って蒸す
②製麹……お米に種麹を付けて麹をつくる手順。冷めたお米を製麹室へ。種麹を振りかけてお米に麹菌を浸透させて麹をつくる
③酒母造り……お酒の元になる酒母を造る手順。水と麹と乳酸菌と酵母をまぜ、酵母を培養していく
④醪(もろみ)造り……醪(=絞る前のお酒)を造る手順。酒母をタンクに移して、水や掛米、掛麹を加えて醪をつくる
⑤上槽から瓶詰め……醪を絞る手順(上槽とは醪を絞ること)。これでお酒ができる

寺田本家さんの今回の見学では、②~④を見させていただくことになりました。

作業中のお米に触ってしまえる製麹室

これは製麹室といって、蒸したお米に麹菌を振りかけてお米に菌を浸透させる部屋なんですけども、こうやって見学者も中に入れてくれました。
1月だったんで、時期的にはまだお酒をつくっている頃合いです。
よく見たら、この背後に麹菌が浸透している最中のお米がありました。

「お米に触ってみていいですよ」って。

ええっ!!
ってビックリです。
他のお蔵さんで今まで製麹室見させてもらったことは何度かありましたが、
これからお酒になるお米に触らせてもらえたの、寺田本家さんが初めてです。

だって雑菌が付いちゃうじゃないですか(笑)我々の。
でもね、蔵人さん曰く、お客さんの菌もウェルカムなんですって。
外から来た菌もなんでも受け入れるのが、寺田本家さんなんです。

ほかのお蔵さん見学する時なんか、白衣を着て髪が落ちないようにシャワーキャップ被ったりしますからね。
作業中のお米に触らせてくれるなんて、まじ有り得ないです(笑)。

酒母づくりも当然見せてくれます

そして、ここは酒母を作っている部屋ですね。写真は山卸し(酛摺り)の様子を説明している様子。もうひとつは酒母の様子。ぷくぷくしていました。

お酒って工業製品じゃないですか。だから当然のように一定の質が求められます。
通常ですと、蔵は狙った味を出すために特定の酵母を使って、一定の品質や味を保てるように調整して作るんです。
だけど寺田本家さんはそういうことをしないわけです。
冒頭で「蔵付き酵母」と書きましたが、これ蔵の空気中に漂ってる酵母のことです。蔵に住みついている菌が勝手に入ってくるのに任せているということです。

まさにここで、その辺に漂っている酵母─蔵付き酵母が、酒母に加わり、お酒の発酵を進めているのです。目に見えませんので写真には映りませんが(笑)。
ここが他の大多数のお蔵さんとちょっと違うところなので、詳しく説明しますね。

まず「酒母造り」には、乳酸添加法(速醸系酒母)と乳酸菌育成法(生酛系酒母)の2種類があります。

前者のいわゆる速醸系は、原料の水米、乳酸菌、酵母菌を最初に全部入れて、まぜて培養して酒母を作るという、効率化を図ったやり方です。現代の日本酒はほとんどがこの方法で作られています。

そして、後者の生酛系と言うのは、最初に入れる原料は水と麹と米だけ。これを山卸しといって酛をすりつぶす作業などをしながら自然に生まれてくる乳酸菌を育成します。で、それに酵母を添加します。そこでようやく酒母が完成します。
速醸系が10日から2週間と言われているなかで、生酛系では倍の4週間から5週間かかります。時間がかかるんですね。時間がかかるということはコストがかかるということです。だからこれをやる蔵は少ないです。

さらに、上記の黄色くマーカーしたところ。酵母を添加するというところですね。大抵のお蔵さんはアンプルに入ってたりする酵母をピピッと乳酸菌の育った酒母に投下するわけです。これが酵母の添加。しかし寺田本家さんはそれもしません。「蔵付き酵母」を使うというのは、つまり酵母もその辺に漂ってる酵母が勝手に入ってきて育つのを待つということです。
生酛系をやるお蔵さんは少ないですが、酵母を添加しない蔵はさらに少ないと思います。(せんきんとか不老泉とかがそうですね)

酵母って、実はその辺に漂ってるんですよ(笑)。日常生活のどこにでも。
買ってきたお肉を冷蔵庫に入れずにおいておくと腐るじゃないですか、あれも酵母がその辺に漂っているからです。
伝統的なお酒づくりって、そうやって、その辺に漂っている酵母の力を借りてつくってるわけで、それを寺田本家さんでは採用しているってことなんです。

1日だけの見学ですが、我々見学者が連れてきた菌も、ここで寺田本家さんのお酒に加わっていくやつもいるかもしれません(笑)。そう考えると面白いですね。

満を持して登場したフラッグシップ「墾」

そして、最後に試飲をさせてもらえます。どこのお蔵見学でもお客が一番盛り上がるところですね(笑)。

寺田本家さんは前述の通り自然のままの生酛造りをされているので、酸が豊かな方向になります。飲むと、より酸味が強いので「ん?」と感じるところもあるかもしれませんが、だんだん「これも味わいがあっていいなあ」と感じてくるのが面白いところ(個人的感想です)

どれも酸味が強めなのですが、とくに一番左の「墾」が、かなりボディがあって、深い味わいがあるなあと思いまして。

説明に、自然酒のフラッグシップとありますが、こちらは寺田本家さんで耕作放棄地となっていた田んぼを復田したりして醸したお酒なんですね。フラッグシップとは「象徴的存在になる商品」のことを指してまして、つまり自然酒といったら「墾」と思ってもらえるように作ったってことです。

公式サイトからスペックを見てみると、精米歩合は酒母用70%:麹米掛米60%、alc度15.5度、日本酒度-6、酸2.5、アミノ酸1.8とありました。この味わいはアミノ酸1.8からか〜!と思いました(笑)

これはいいお酒だ、買って帰ろうと思いました。で……

い、いちまんえん超えだった……!

心の準備ができておらず、この日は五人娘と貴醸酒を買って帰りました(笑)。これを書いている今、すぐ買いたいと思ってます。通販で買えるんですけどね。

イヤシロチという言葉をここで聞くとは……

寺田本家さんが自然酒造りをするようになったのは、先代の23代目寺田啓佐さんからで、ご自身が病気で伏せったことがきっかけになったとか。

何度も書いていますが、寺田本家さんの菌ウェルカムな姿勢は日本酒作りでは異端レベルでして。製法自体は同じ手順のお蔵さんもそこそこありますが、他はもっと厳密に菌の管理をされてるんですね。こんなにオープンじゃないです(笑)

で、製麹室で書いたのですが、製麹室をぐるっと炭の壁で囲っているんだそうです。さらっと説明されていましたが、敷地内も地面に炭を敷いているそうで「イヤシロチ化」をしていると聞きました。

ここで「イヤシロチ」という言葉を聞くとは…(笑)

ちょっと話がそれるのでここでは詳しく説明しませんが、土壌を浄化する方法の一つで、物理学者の楢崎皐月さんが提唱したものてす。スピリチュアル界隈で扱う話なのか、科学の世界の話なのか境界線上にある話でして。これも寺田本家さんならではで、面白いなあと思ったのでした。

わたし、寺田本家さんのお酒わりと好きな方なので、また買いに行きたいし、また見学させてもらおうと思ったのでした。個人的にすごく楽しかったです。

寺田本家さんのお酒は好みが分かれるところあるので、万人にはお勧めしませんが、ぜひ一度飲んでみていただけたらと思います。ぜひに!

おまけ、ガチの地域スーパーに興奮する

寺田本家さんの通りにある地域スーパーの佇まいがカッコ良すぎてパチりしました。わたしこういうスーパーみると興奮するんですよね…。時間がなかったので中も少ししか見れませんでしたが、頑張って続けて欲しいですね。

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かながわの商店街に関係するお仕事を20年やってきました。最近はきき酒師の資格を取り、日本酒ばかり飲んでいます。文章書いたりするのが得意ですが、最近は動画撮る方が楽しいです。