今回は久しぶりの日本酒イベント参加レポートです。4月の最初に東京都北区にある「赤煉瓦酒造工場」で開催された「熟成古酒ルネッサンス2025」というイベントに参加してきました。
赤煉瓦酒造工場というのは、かつて使われていた酒造工場をそのまま保存した、歴史的建造物です。ふだんは公開されていないのですが、イベント時だけ中に入ることができるということで、今回の目玉のひとつでもありました。

「熟成古酒ルネッサンス」は、様々な“熟成された日本酒”の試飲ができるイベントです。日本酒といえばフレッシュな新酒が人気ですが、時間をかけて熟成された古酒にも、独自の魅力があるんですよね。
わたしは以前から、日本酒なら生酒から古酒まで何でも好きなので(笑)。以前もこのイベントに参加したことがあり、今回は2回目。ただし、前回と違って今回は建物の見学も楽しみで、ワクテカしながら参戦です。
◎「100年後のお酒をつくる」って、どういうこと?

今回のイベントは、長期熟成酒研究会、酒類総合研究所、そして東京農業大学が共同で取り組む「日本酒100年貯蔵プロジェクト」の20周年ってことでの記念開催でもあったようです。
日本酒を100年寝かせるという、途方もない試みに、2005年から本気で取り組んでいるプロジェクトです。ずっと置いておくだけでなく、定期的に分析や試飲を行いながら、経過を記録し、日本酒がどう変化していくかを長期で観察するという、長いスパンの実験をしているんです。
今回は、会場となった工場の地下で、実際にその様子を見学できました。
◎とにかく飲んでみないと分からない。一期一会に、心踊る
イベント会場には、10を超えるメーカーさんがそれぞれ熟成古酒を持ち寄っていて、どのブースも魅力的でした。
しかもそれに加えて、長期熟成酒研究会の方々が自家熟成したレアなお酒も並んでいて、熟成古酒の飲んだことない方なら、びっくりするようなラインナップです。

「これ、ほんとに飲ませてもらっていいの……?」と気後れしてしまうような貴重なものもちらほら。でも、せっかくの機会ですので、ありがたく、そしてしっかりと味わうしかありません(笑)
(写真のお酒、どちらも味わいがほんとに深くて、美味しかった……)
いくつか印象深いメーカーさんの商品を紹介しますね。
まず、一ノ蔵さんの「Madena(までな)」。これはすごいです。

マデイラワインの製法を参考にして造られれたこのお酒は、鳴子温泉の温泉熱を活用して熟成さているそうで。色は、もうほぼ“真っ茶色”。
一般の方がイメージする、普通の日本酒とは別モノの甘さで、まるで“デザートワインならぬ、デザート古酒”ですね。
お酒とは何か……と考え込んでしまうような商品です。これは、ぜひ多くの人に試してもらいたいお酒です。ちなみにわたしは先日の仙台旅行で現地で購入しておりすでに家で保管しています。今回は試飲のみさせていただきました。甘くてウマーです。
◎古の酒造りが、今も生きているという驚き
もうひとつ、紹介したいのが木下酒造さんの玉川「Time machine vintage」。わたしは2017年ヴィンテージを以前のイベントで購入し、大切に保管しています。今回は2018年版が登場していましたね。

このお酒は名前のとおり、“時間を遡る”ような製法で醸されています。以下、WEBサイトの説明を引用します。
1712年の製造法を再現したTime Machine。精米歩合は当時の精米技術の限界と思われる88%。麹造りには現代の標準の1.5倍にあたる72時間、酵母無添加の「酒母」には1ケ月かけます。2ヶ月近く発酵させるもろみは、仕込水の量が少ないため極めて硬く、苦労して搾った酒は現代の標準量の約半分。日本酒が大量生産品ではなかった時代の造り方です。
日本酒の色は時間とともに変化し、薄い黄緑から琥珀色、褐色へ、そして数十年で黒っぽくなります。しかしTime Machineは、新酒の段階で一般的な酒の10年古酒ほどの深い黄色、5年で薄いコーヒー色、10年たつと醤油のような黒さになります。また、若いときのみたらし団子や蜂蜜の風味から、徐々に香ばしいキャラメル感やスモーキーさを増し、さらにドライフルーツ、奈良漬け、醤油、干し椎茸やチョコレートへと変化していきます。
木下酒造WEBサイトより
さりげなく、すごいこと書いてありますよね(笑)。
今の時代に、こんな手間と時間のかかる造り方をしているなんて、ヤバいですよね。
でも、それだからこそ、他にはない深みが生まれるんですよね。ぜひ飲んでみてください。本当に一味も二味も違うなんとも言えない個性のあるお酒です。
◎地下で眠る、100年のロマン
そして、イベント後半の目玉。いよいよ「日本酒100年貯蔵プロジェクト」の貯蔵庫を見学させていただくことに。協力している酒造(姫路の龍力さん)の方に案内されて、工場の地下へと降ります。

ひんやりと静まりかえった地下室。そこにずらりと並ぶ貯蔵ボトルたちは、すっかり埃をかぶって真っ黒でした。

写真の看板に書いてある通り、2005年12月8日に貯蔵を開始し、以後10年ごとにテイスティングしたり成分分析を行っているとのこと。


瓶は、20年分の埃に覆われて、美術品みたいな風格ですよね。
自分のような一般人がこれを飲める日は来ないと思いますが(笑)でも、100年後にこれがどんなお酒になっているのか想像するだけで、なんだかムネアツです。ロマンがあります。
◎「古くて新しい酒」の可能性
イベントに参加してみて思ったのは、日本酒の熟成古酒って、本当に「古くて新しい」存在なんだなと。
かつて明治時代の酒税制度では、お酒を貯蔵しておくと税金がかかる仕組みだったといいます。そのため、蔵元は造ったらすぐ売る、という流れが主流になり、それが現代にもまだ色濃く残っているような気がします。
「日本酒は鮮度が命」と思っている方が多いかとは思いますが、熟成古酒は一周回って新鮮に感じるんですよね。
熟成させる飲み方は、江戸時代の文献にも登場するらしいですし。これは新しい飲み方というより復活した飲み方なわけです。
◎変化を楽しむという贅沢
実際にいろいろな熟成古酒を味わってみると、まず感じるのは「まろやかさ」かと思います。
専門的には、分子がクラスタ化することでとろみが出て、舌触りが良くなるんだそうです。
それに加えて、元のお酒のタイプによって甘みが立ってきたり、逆に酸味がキリッと際立ってきたり。酸のバランスは特に好みが分かれるところですが、自分の好きな方向に熟成が進んでいると、まさに「これだ!」って、なりますね。
この「時間による変化を楽しむ」って、すごく贅沢な楽しみ方ですよね。

◎やっぱり、まずは飲んでみていただかないとね…。
ただ、いくら文章で書いても、この味や香りの変化はどうしても伝わらない……!
だからこそ、ぜひこういったイベントに参加して、実際に体験してみてほしいなと思います。
熟成古酒って、マニアックなジャンルかもしれないけれど、敷居はそんなに高くないんですよね。造り手さんたちのブースでは丁寧な説明が聞けるし、「これが5年熟成、こっちは10年」と比較できるのも楽しい。
そんなこんなで、今回のイベントも存分に堪能させていただきました!
熟成古酒、まだまだ奥が深そうなので、わたしもまた機会があればもっと飲み比べてみたいし、蔵元の方とのお話も楽しいです。
この記事を読んでくださった皆さんも、もしチャンスがあればぜひ一度、熟成古酒の世界を覗いてみていただけたらいいなと思います。
ごちそうさまでした!