最近人気のとあるパン屋さんが、冷凍のパン生地を仕入れて仕込みの時間を圧縮し、効率よく運営している、という話を聞きました。
昔からこうした「冷凍のパン生地を仕入れてパン屋をやる」手法はあるんですけど、最近は効率化のためにやっているという文脈で聞くことが多くなりましたね。
確かにパン屋さんって、今ものすごく人気だし、増えてますよね。パッとブランドをつくってパッと売るには、効率がいい方が良いに決まっています。
生地からちゃんと作っているパン屋さんからすると面白くない話かもしれません。それに雑誌やメディアで人気のパン店を巡っている消費者の方からしても「えーそうなの?」と面白くない話かもしれません。
でも、わたしとしては「有り」だなと思うので、今日はその話をします。
パン屋さんってすごく重労働なんです
きちんとやっているパン店の方に話を聞くと、仕込みが大変だという話をよく聞きます。早朝から仕込みを始めて生地づくりまでに半日かかり。その後も接客しながら、追加で焼いたりしなきゃいけないこともあります。閉店後も翌日の仕込みなんかがあったりして睡眠時間を削ることになります。
ブラック労働とか言われてしまうのは、このあたりの事情からです。
だから、冗談抜きでパン屋さんは若い間しか働けないんです。
わたしも通っていたパン店も、店主さんまだそれほどのお年でもないのに「大変だから」って閉店されてしまいました。本当に残念な気持ちになりました。
冷凍パン生地を使うことで、普通の労働が手に入る
そこで、冷凍パン生地なのです。
これを仕入れて使うことで、パン店で実際に行うことは整形して焼くだけになります。半日かかっていた仕込みの時間が1~2時間に圧縮されるそうです。(※たぶん個人差あり)
一番手間のかかる仕込みの時間を圧縮できることで、朝の暗いうちから作業を始める必要もなくなりますし、ブラック労働から解放されるわけです。
もちろん、生地から焼き上げまで、同じお店の職人さんがつくるのが、プロというものでしょう。
しかし前述の通り、生地から作ろうとするとかなりの重労働になるわけです。人を増やせばよいと言う話になるかもしれませんけど、日常的なパンの売り上げだけで、なかなかそういうわけにいかないんですよね。
(だから最近は高価格帯のパン店が増えていると言うのも逆説的に言えばそうなんですけれど)
プロであることを貫くには、なかなかハードルが高い状況があるのです。
選択肢が増えた? パン店の裾野が広がる?
いやしかし言い換えれば、これまでは「自分の店で生地づくりからこだわって何とか頑張る」しか選択肢がなかったのが、ここに「冷凍パン生地を仕入れてやる」という選択肢が加わったと見たらいいのかなと思います。
すごいプロフェッショナルで根性がある人しかパン屋さんになれなかった世界から、そうじゃない人もパン屋さんができるようになった、のはいいことだと思うんですよね。
端的に言って、パン屋になれる人が増えるわけですから。パン屋さん人口の裾野が広がったというか。
わたし自身は「すべての人が、楽しく働ける世の中になったらいいな」といつも思っているので、
一人の人がつらい思いをしてたくさん働く働きかたと、たくさんの人がすこしずつ分担して働く働きかたのどちらか選べるのはよいことだと思います。
ちょっと違う論点かもしれませんが、わたしは、障がいのある方が働く共同作業所として製パン店を運営しているNPO法人を取材したことあります。10年以上前の話ですけど、冷凍のパン生地を仕入れて、整形して焼いている、って言ってましたね。
職人じゃない人がパン屋をやるというのは、ある意味では「邪道」かもしれないんですが、でも、そういうときにわたしはこの共同作業所で働いていた皆さんのことを思い出すんですね。だから、いろんな人がパン屋になれるっていう世界も悪くないなと思うわけなのです。
プロフェッショナルな皆さんは、自店で生地を作って売るのも有りかも
わたしは、何人もプロフェッショナルなパン屋さんを知っていて。この記事を書きながらも「冷凍パン生地が有りなんて記事を書いていてごめんなさい」とか頭の中で謝っています。
……なんですけども。
そういえば、独自工場をもってチェーン展開している某店舗さんは、レストランや他のパン屋さんにパンを卸してるっておっしゃってましたね。
冷凍生地でなのかどうかまで聞かなかったですけど、プロフェッショナルなパン職人の方は、自分が生地を作って売る側に回るっていう発想も有りですよね。
違うパン屋さんで4~5店で集まって共同出資で工場つくって、A店用、B店用生地をつくれるような体制にしておいて、自店の生地をつくりつつも、他のパン屋にも冷凍生地を卸売販売するって、有りじゃないですか?
誰か、やればいいのに(笑)。
と、思ったところで、本日はおしまいです。
どなたかがアイデアを形にしてくれること、願っています。